第38回 カテーテル治療の腎機能に対する影響
東海大学医学部付属病院教授 伊苅裕二
●現在、狭心症と診断され薬で治療をしています。腎機能に障害があるため、造影剤を使用するカテーテル治療による腎機能の悪化が気になります。(60代男性)
まず、このコラムをお読みになっている皆さんのために補足しますと、狭心症や心筋梗塞と診断されカテーテル治療を受けるとなった場合、シネ装置と呼ばれる大型のレントゲン装置のようなもので血管の流れを確認するための撮影をしながら治療にあたるのですが、その際、血管の部分だけX線を通さないように、造影剤というものを流しながら治療にあたります。造影剤は治療をするにあたって欠かせないものではありますが、腎臓を悪化させる恐れがあるのも事実です。カテーテル治療の際に多量に使うと、腎障害がおこる可能性があり、最悪の場合、慢性透析をしなければならなくなることもあります。
残念ながら、冠動脈インターベンションの治療において、造影剤をどのように取り扱うべきかということについて、世界的に最先端の研究や治療にあたっている医師の間でも、これだという方向が定まっていません。ただし、いくつかは腎機能保護の方法が分かってきています。
まず挙げられるのが、生理食塩水を使用する方法です。治療の6時間前から、点滴(輸液)をして、尿量を増やします。そうすると、治療の際に使用する造影剤の血液中の濃度が薄まり、一気に濃い造影剤が腎臓に流れることがなく負担が軽くなるというものです。造影剤による腎症を防ぐ手段として、この方法は確立されています。
次に、Nアセチルシステインという薬がありますが、日本では気管支の痰をきる薬として認可されており、残念ながら、腎保護をする目的での使用は承認されていません。事前に内服すると腎臓を保護する役割があるのではないかといわれていますが、先ほどの生理食塩水の点滴に比べると、臨床試験の結果ではあまり効果的との報告はでていないようです。
そのほか、重炭酸ナトリウムという点滴があります。一般的にはお掃除や料理にも用いられる重曹のことですね。この、重炭酸ナトリウムを点滴すると、血液がややアルカリ性になり、尿もアルカリ性になります。この尿のアルカリ化が腎臓を保護する可能性があるとされます。しかし、効果は先ほどのNアセチルシステインと同程度です。
それ以外は、持続性の血液ろ過装置を冠動脈インターベンション治療中から回しておくという方法があります。以前は、治療後にすぐ血液透析をして血液中の造影剤を抜くという方法が行われていましたが、透析は血液をろ過して老廃物などを取り除くという方法であるため、いったん体から血液の量が一気に減ります。すると、造影剤を抜くことはできますが、腎臓に流れる血液も減ってしまうため、かえって悪化させることになるのではないか、という議論がなされるようになりました。そこで、最近では血液ろ過をする場合は、術中からはじめる方がよいとする考えがあります。
以上お話しした内容のうち、現在では最初にご紹介した点滴をして血液や体液の量を増やした方が腎臓を守ることができるという考えが主流になり、多くはこの方法がとられています。
このように、腎機能障害がある患者さんの冠動脈インターベンション治療については、最先端の研究者がいろいろな議論を重ねているというのが現状です。では、なぜこんなに議論が盛んであるかというと、慢性的に腎臓の悪い人は、慢性腎臓病(CKD)と呼ばれ、進行すると透析を受けることになります。米国の報告によると、CKDから透析にまで進行する人の割合は5年で2割程度ですが、一方、5年で命を落とす人は45%もいるというのです。つまり、腎臓の悪い人は同じ血管病という点で、たいてい心臓の状態も悪くなっているのです。治療時に造影剤を使用することによる腎機能悪化で透析になるリスクはあるものの、即、命にかかわる心臓を助ける方がより大事ではないか、ということが言われはじめています。
最近では、血管内超音波を使用して造影剤の使用を10cc程度に抑え、腎臓を悪化させないようにカテーテル治療をする方法も研究されはじめています。この方法が確立されると、腎機能が悪い人も冠動脈インターベンションを積極的に受けることができるようになります。
現状では、腎臓の悪い人が心臓病の治療を受ける場合、ほとんどが外科手術となります。ただし、造影剤をほとんど使用せず、腎機能悪化のリスクがないのであれば、低侵襲なカテーテル治療の方が患者さんの負担は軽くなります。今後の研究を見ていく必要がありますね。
■関連リンク:
心臓病の治療|冠動脈インターベンション|ハートケア情報委員会
http://heartinfo.jp/cure/index.php
第17回 狭心症の治療について|ドクターズコラム|ハートケア情報委員会
http://heartinfo.jp/column/article/post_10.php
【プロフィール】
名古屋大学医学部卒業。
東京大学医学部にて医学博士取得。
三井記念病院、ワシントン大学、再び三井記念病院勤務を経た後、
現在、東海大学医学部付属病院(神奈川県伊勢原市)教授。
循環器内科学、心血管インターベンション、血管生物学を専門とし、
数々の論文を執筆。カテーテル等の医療機器の開発にも従事。