第27回 心臓病の原因の一つ 血栓の仕組みとは?
埼玉県川越市 平成クリニック理事長 高山 泰雄
●梅雨があけて本格的な暑さがやってきましたが、暑い時にも心臓病になりやすいというのは本当ですか?
季節によって心臓病の発生に差異があるかどうかは不明です。ただ、個人的な印象からすると、日中は暑いけれども、夜や明け方になると急に寒くなるような気温の変化が激しい時期に、冷たい空気を吸い込むと“胸痛”が起こり、これを、“狭心症のような症状”と思い、病院に訪ねてくる方が増えるように思います。梅雨の季節は、日中と夜との気温差が意外とあるものです。
この気温の差が激しい時に起こる症状は、異型狭心症の人によく見られます。異型狭心症とは、心臓の血管である冠動脈の痙攣(けいれん)によっておこる狭心症です。動くことによって症状が出現する労作性狭心症ではなく、安静時や夜中・明け方、さらには飲酒後に多く発作が起こります。この異型狭心症の発作には、ニトログリセリンが有効です。
また、先ほど“狭心症のような症状”と言いましたが、これは、必ずしも心臓の血管が痙攣しているのではないからです。肺などの胸の中にある器官が反応して“胸痛”が起こり、狭心症と間違えやすいこともあります。
このような、気温の変化に対応するには、あらかじめ“この季節は気温差が激しい”ということを意識することが大事です。体に温度差を感じさせない工夫をしてみましょう。
気になることがあれば、いつもかかっている主治医の先生に相談してみてください。
●脱水症状で血液の濃度も変わるのでしょうか?
確かに、脱水症状になると体内の水分が汗として流れますので、血液の濃度が濃くなってしまうような印象を受けます。ところで、血栓ができ、それが心臓の血管に詰まってしまうと急性心筋梗塞になりますが、血栓の発生する原因は単純ではないのです。
19世紀のドイツの病理学者のウィルヒョーは、①血管内皮細胞の障害、②血流の障害、③血液凝固性の亢進(血液が固まりやすい状態におかれること)の3つを血栓形成の成因としました。これは、彼の名前をとって「ウィルヒョーの3要素」といわれ、現代医学においてもしばしば引用されています。
脱水の時に血栓が引き起こされた場合には、確かに血液の濃度が変わっているのかもしれませんが、このウィルヒョーの観点からいうと、③で示したように濃度が高くなって性質が変わっているのか、あるいは、②で言うように、濃度が高くなることによって血液の流れが悪くなっているのか、3つの要素のうちどれが本当の原因になっているのかは、わからないのです。ただ、この3つの要素のいずれか、あるいはいくつかを併発しているということはいえるでしょう。
体重50kgの人の場合、血液は5リットルくらいになります。そのうち50%が水分ですので、2.5リットルが水であると考えると、確かに、水分補給もせずに汗を2リットルくらいかき続けたら、血液は濃くなるように思われます。ただ、血球成分であるヘマトクリットが100%になるということは現実的にはまずあり得ませんので、具体的にどのくらいの濃度になると血栓症になる、ということは明らかではありません。
●夏の狭心症も冬の狭心症も症状などに変わりはないでしょうか?
そもそも狭心症には、いろいろな症状があります。胸が痛くなるだけでなく、胃もたれのような症状がおきたり、歯や背中が痛くなったりすることもあります。私が患者さんのお話をうかがっている限り、夏と冬とで特徴的な症状があるようには思われません。実際に、狭心症と診断する際の問診表は、一年中同じものを使っています。また、季節によって症状が軽いとか重いとかいうこともないように思います。繰り返しになってしまいますが、やはり気温の変化の方が急激な血圧や脈拍の変化など、心臓への影響は大きいように思われます。とくに暖かくなってきた時期に急に冷え込むというケースです。気温の下がった夜間に薄着で、お酒を飲んでフラフラと歩くというのは、わざわざ発作を誘発するようなものです。気温の変化には十分注意しましょう。
また、季節には関係ありませんが、閉経後の女性において、男性に比べ、虚血性疾患の程度がより重症化する傾向があるようです。また、冠動脈疾患の危険因子を多く持つ方、中でも糖尿病を有する方は、一度検査をすることをお勧めします。
■関連リンク:
第26回 運動と体内の塩分と水分の関係は?|ドクターズコラム|ハートケア情報委員会
http://heartinfo.jp/column/article/post_19.php
第29回 寝苦しいこの時期 心臓病対策は脱水に気をつけて|ドクターズコラム|ハートケア情報委員会
http://heartinfo.jp/column/article/post_22.php
虚血性心疾患について|心臓病について|ハートケア情報委員会
http://heartinfo.jp/disease_h/001.php

【プロフィール】
群馬大学医学部卒業。
群馬大学医学部付属病院第二内科、同大学院医学研究科、東京
女子医大心臓血圧研究所内科、立正佼成会付属佼成病院麻酔科、
榊原記念病院内科、米・スタンフォード大学病院循環器内科留学を
経て、1989年、医療法人社団平成クリニックを開設。
循環器疾患を専門に地域医療に従事。